冷徹騎士団長が媚薬を盛られて大変なことになった話
「あ、えぇと、いただきもののクッキーを食べた後、しばらくしてから様子がおかしくなって……明らかに呼吸が荒くなり、体が熱いと……クッキーを食べたのは、三十分ほど前のことです」


 質問に答えたのは、三人の中で一番若そうな黒髪の男。何度か医務室で怪我の手当てをした覚えがある。

 話を聞きながらふたりの騎士を誘導し、患者を奥のベッドへと運んでもらった。

 長身の彼をなんとか横たわらせたところで、もうひとりの赤毛の騎士が口を開く。


「キャンベル殿。おそらく団長は、媚薬の類いを盛られたのかと」
「媚薬? ですか?」


 思いもよらない言葉に、ユリハはきょとんと蜂蜜色の瞳をまたたかせる。

 帝国騎士団副団長である赤毛の男は、神妙な顔でコクリとうなずいた。


「実は先ほど、とあるご令嬢が騎士団の訓練の見学に来ていたのです。お父君である伯爵といらしていて、熱心に──特にマクリーン団長のことをご覧になっているようでした。そうして訓練が終わるやいなや、手作りだというクッキーを差し入れてきて……後でいただく、という団長に今すぐ食べて欲しいと執拗に迫り、仕方なく団長は一枚口にされたのです。その後も伯爵たちは何かと団長に話しかけて纏わりついていたのですが、しばらく経つとしぶしぶといった様子で帰られました。そうして彼らの姿が見えなくなったとたん、団長はガクリと地面に膝をついたのです。あのふたりの前で、団長は必死に薬の症状に耐えていたようです」
「なるほど……」


 うなずきつつ、ベッドの上で荒い呼吸を繰り返す人物へチラリと目を向ける。
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