冷徹騎士団長が媚薬を盛られて大変なことになった話
 ラディウス・マクリーン。
 帝国騎士団の若き団長で、歳はたしか三十二だったはず。

 さらさらの短い銀髪。鍛えられたたくましい身体つき。
 今は眉根を寄せた苦悶の表情をしているが、その顔が整っていることは一目瞭然だ。

 そして今はまぶたに隠されている瞳がアクアマリンのような美しい薄青色だということも、ユリハは知っている。

 公爵家の次男という立派な家柄で実力もあり、そのうえこんなに美男子な彼は、たいそうよくモテる。

 彼が通りかかっただけでご令嬢たちや王宮に勤める女性たちがきゃあきゃあと騒いでいる光景を、何度も見かけたことがあった。

 性格は極めてクールでどんな女性相手にも淡々とした態度だが、そんなところも魅力のひとつらしい。

 今回のご令嬢も、そんな彼に熱を上げていたのだろう。父親の伯爵も、公爵家との繋がりを持とうと思惑があったのかもしれない。
 媚薬を使い、どうにか密室にでも連れ込んで既成事実を作ろうとしたのだろうか。

 そういえば、以前にも怪しげな薬を盛られそうになったことがあると彼自身が言っていた。モテる男も大変である。

 ユリハは何度かラディウスの治療をしたことがあって、王宮内でも会うと挨拶をする程度には知り合いなのだ。


「わかりましたわ。他の可能性も視野に入れつつ、治療してみます」
「お願いします」
< 3 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop