冷徹騎士団長が媚薬を盛られて大変なことになった話
「う……」


 少し楽になったのか、ラディウスが吐息混じりに声を漏らした。

 眉根を寄せた悩ましげな表情。汗がつたう太い首。
 本来彼が備えているそれに薬の作用も相まって、色気が凄まじいことになっている。

 それは、どうせ自分などは相手にされないからと──厳重にしまい込んでいるはずの恋心が、うっかり漏れ出てしまいそうなほどの威力だった。

 ユリハは、思考を止めてかけていた自分を心の中で叱咤する。

 今は──早くこのひとを、助けないと。

 ひとまず解毒薬を用意しようとした彼女が動くより早く、小さな呻き声とともにラディウスがうっすらとまぶたを開けた。


「マクリーンさま? お気づきですか?」


 身を屈めて顔を覗き込むユリハを、薄青の瞳がぼんやりと捉える。


「……天使がいる……俺は、死んだのか……」


 掠れた美声でラディウスがつぶやいた。

 彼が盛られた薬には、どうやら幻覚作用もあったらしい。これは急いで解毒薬を調合して飲ませなければ。
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