冷徹騎士団長が媚薬を盛られて大変なことになった話
「あなたさまは生きておられますわ。ここは医務室ですよ」
「ああ、天使かと思ったら、ユリハ・キャンベル嬢だったか……」


 その色気だだ漏れの声で名前を呼ばないで欲しい。

 心の中で悶えつつ面には出さずに、ユリハは神妙な顔でうなずいて見せた。


「ええ、私です。マクリーンさまはどうやら薬が混ぜ込まれたクッキーを食されたようなのですが、覚えておいでですか?」
「ああ……」


 しかめた顔で、ラディウスが天井を睨む。意識はハッキリしているようだ。


「お辛いところ恐れ入りますが、自覚できている症状をうかがっても?」
「……まず、体が熱い。頭がくらくらする。呼吸が少ししづらい。あと、どうしようもなくきみに触れたい」


 付け足された最後のセリフで、カルテを書き込む手がピタリと止まった。

 ユリハはらしくもなく動揺し、視線を泳がせる。


「それは、盛られたのがおそらく媚薬の類いで……せ、性欲が増長されているせいですわ。薬の効果ですので、仕方のないことです」


 義務的に答えたつもりだけれど、声が少し裏返ってしまったのは、気づかれていないだろうか。

 ラディウスが、熱に浮かされたような目をしてまっすぐユリハを見すえている。
 じわ、と、ユリハの体温が上がった気がした。
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