冷徹騎士団長が媚薬を盛られて大変なことになった話
 ああ、そんな目で、見ないで欲しい。
 彼のこの言動は、すべて薬のせいなのに……勘違いして、しまいそうだ。


「ま、まくりーんさま」
「ラディウスと呼んでくれないか」
「そんな、だ、だめです、許されません……」


 一応ユリハも貴族ではあるが、実家は田舎の貧乏男爵家だ。
 家督はふたつ下の弟が継ぐし、仕事に生きると決めた彼女は普段から淑女の振る舞いより医官としての立ち回りを第一にしていて、デビュタント以降社交界にだって顔を出していない。

 釣り合っていないのだ、何もかも。
 ラディウス・マクリーン団長は、住む世界が違うひとだと──そう自分に言い聞かせて、想いを、秘めてきたのに。

 ユリハの両手をベッドに縫いつけているその手の指先が、すり、と手のひらを撫でる。

 やわい部分を刺激されて、思わずびくんと身体がはねた。
 ラディウスは、相変わらずいとおしそうに、熱っぽい眼差しをユリハに向けている。


「俺がきみを名前で呼んだら、きみも応えて呼んでくれる?」
「い、いけませんわ」
「ああ、叱る声もたまらない──ユリハ」
「ッ、」
「ユリハ、かわいい……ユリハ」


 なんということだ。あの冷徹怜悧な騎士団長が。表情も心臓も凍りついていると噂されているラディウス・マクリーンが。

 とろけるような笑みを浮かべて、砂糖菓子のように甘い言葉を吐いている。

 ……媚薬、おそるべし……!
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