一途な溺愛が止まりません?!〜双子の姉妹は双子の兄弟にとろとろに愛されてます〜

1、双子の姉妹と双子の兄弟

 少し肌寒い風が頬を(かす)め、木々の葉が赤やオレンジに染まる季節が来た。エーデルシュタイン王国きっての名門校の五年生であるデーア・オラーケル侯爵令嬢は薄い蜂蜜色の癖一つない腰までの長い髪をなびかせ、ライトグリーンの瞳を輝かせながら一年生の時からの友人に会うため学校の図書室へ急ぎ足に歩く。

 薄暗い図書室へ入りいつもの席へ向かう。そこには少し癖がある金色の髪にラピスラズリの瞳を持つ端正な顔立ちの青年が静かに本を読んでいた。

 青年を確認したデーアは今日読む本を本棚から選び出し、邪魔しては悪いとはす向かいの席に静かに座り本を読み始める。

 大して会話はしないこの静かな友人関係だが、読書の合間に読んでる本の話や授業の話、家族や友人の話などをするのがデーアにとってこの上ない楽しみになっていた。

 話をしていくうちに彼はクラスが違うが同学年のこの国の五大侯爵家のヴァイスハイト・アルメヒティヒ侯爵子息で、デーアと同じく双子の弟妹をもつ兄姉であること。魔法の実技試験が不得意のデーアが努力の成果を出せる総合教科の筆記試験で唯一一度も勝てたことのない相手であることを知った。今ではデーアの良き話し相手で良き理解者でもある。



 お昼前の三限目が終わり、息を切らして購買のパン屋へ一直線に廊下を駆け抜けるデーアの双子の妹、アンジュ・オラーケル侯爵令嬢は今日こそは負けるものかと足に強化魔法をかけ全力疾走する。

「まだアレ残ってますか?!」

 生徒がひしめき合う購買に飛び込んだアンジュはパンを売るおじさんに目当てのパンの有無を尋ねた。

「ごめんね、さっきの子で完売だよ」

 困った様に笑うおじさんは、絹糸のような真っ直ぐな金色の髪を後ろで一つに結んで目当てのパンを二つ両手に一つずつ持ち、交互に頬張る端正な顔立ちの青年を指す。

「ま〜た〜! アンタかぁあああ!」

 アンジュは薄い蜂蜜色した緩やかに波打つ腰までの長い髪を逆立てさせ、その()んだ綺麗なスカイブルーの瞳は青年の燃えるようなスカーレットの瞳をキッと睨みつけた。

「何で二つ買うの?! 普通一個でしょ! 平等とか平和とかアンタの中にはないの?!」
「おうおう、何ピーピー(わめ)いてんだアンジュ。弱肉強食って言葉しらねぇの?」

 アンジュに憎まれ口を叩く青年、ゲニー・アルメヒティヒ侯爵子息はニヤッと片方の口角を上げ、勝者の笑みを浮かべる。

「ゲニーのバカ! 食いしん坊! 太っちゃえ!」

 そう言い捨てたアンジュはその場から走り去っていった。



「ダメ、お腹すいて死んじゃう」

 購買からダッシュで出ていき、学校の裏庭に着く。花壇のレンガの縁に腰を下ろしたアンジュは、ぐぅ〜とお腹を鳴らしてだらんと項垂(うなだ)れた。

「よし! いつものおまじないをしよう!」

 キリッとした顔になったアンジュは両手の手と手を組み合わせ、この世界の女神に祈りを捧げる。

「女神様! ぷにぷにもちもちパンをお恵みください!」

 すると目の前に願ったパンが現れ、アンジュは喜んでパンにかぶりついた。

「はぁ〜、あいつの能天気さに呆れるわ。女神がパンなんかくれるかよ。解析魔法使えば誰が魔法使ったか分かるだろうに。だからいつまでたっても実技試験で僕に勝てない“二位”なんだよ」

 一部始終を木を背もたれにし隠れて見ていたゲニーは、腕を組み呆れてため息をつくのだった。
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