一途な溺愛が止まりません?!〜双子の姉妹は双子の兄弟にとろとろに愛されてます〜

2、事件

 寒い冬が過ぎ、デーアとアンジュは晴れて十七歳になった。早生まれの二人の誕生日は遅く、誕生日が来て数週間で次の学年に上がる。もうすぐ最終学年の六年生になるのだ。

 この国の五大侯爵家の令嬢である二人の十七歳の誕生日パーティーには沢山の人が招待される。今年はヴァイスハイトも弟のゲニーを連れて参加するらしく、デーアは会場で彼の姿を探してしまう。不意に肩をポンと叩かれ、つい期待して振り返った。

「やあ、君はお姉さんの方のデーア嬢かな?」
「ゴルト王子殿下!」

 黒髪黒目の甘いフェイスのこの国の王子であるゴルト・エーデルシュタインにデーアは慌ててお辞儀をする。

(かしこ)まらないでよ。私とは学友じゃないか」

 ゴルトは学友であったが、気安く話しかけていい相手ではなく、必然とデーアは畏まってしまう。

「デーア! 探したんだよ〜!」

 デーアのもとにアンジュが笑顔で駆け寄ってきた。

「わ! 殿下もいらしたのですね!」

 アンジュは驚き、慌ててお辞儀をする。

「ご招待ありがとう、アンジュ嬢。これは私の友人のシュタールだ」
「こんにちは、美しいお嬢様方。現宰相の息子のシュタール・ブライと申します。ところでオラーケル邸は庭園が素晴らしいとか。四人で抜けませんか?」

 どこからが現れた銀髪銀色の瞳の青年は微笑んでそう言った。



「ここが我が家の庭園ですわ。ここのバラは品種改良しておりますのでこの時期でも色とりどりの花を咲かせていますの」

 デーアが説明すると、ゴルトとシュタールは褒めたたえた。デーアの隣に立つアンジュも自慢の庭を褒められて嬉しそうにしている。

「ところで私たちから君たちに誕生日プレゼントがあるんだ」

 ゴルトはそう言うと胸のポケットから群青色の四角い箱を取り出した。パカッと上下に開けるとそこには金色に光る指輪が現れる。

「こんな大層なもの頂けませんわ!」
「そうです! 申し訳ないですがお仕舞いください!」

 デーアとアンジュは狼狽(うろた)えた。

「まあまあ、良いではありませんか。殿下はデーア嬢へ、私はアンジュ嬢へ」

 それぞれに手を取られ、デーアとアンジュは強引に指輪をはめられてしまう。するとドクンと体の芯が熱を帯び、デーアとアンジュを(おそ)った。

「殿下……ナニをなさいましたか」

 息を荒くしてデーアが尋ねる。

「これ抜けないよ!」

 アンジュも指輪が抜けないことに気付き動揺する。

「その指輪は外れないよ。(オス)に“中出(なかだ)し”されない限り……ね」

 くつくつとゴルトは仄暗(ほのぐら)い笑みを浮かべた。

「「なっ!! な、な?!」」
((中出しーーー?!))

 デーアとアンジュは顔を赤くして狼狽える。

「君達も(ねや)教育は受けていますでしょうから分かりますよね? 今から気持ちいいこと、しましょ?」

 シュタールはそう言ってアンジュの(あご)を持ち上げた。身の危険を感じたアンジュはドンとシュタールを突き飛ばし、魔法を発動する為詠唱する。ところが魔法が発動しない。焦るアンジュを見てゴルトは高笑いをあげた。

「言うのを忘れていたね。その指輪をはめてる間は魔法が使えないんだよ。か弱い令嬢が私たちにかなうと思うなよ」
「やめて! 誰が助けて!!」
「うう〜! 誰かぁ!!」

 手を掴まれた二人の悲痛な叫び声があがった。



「この声……デーア?」
「アンジュの声もしたぞ?!」

 会場のホールから抜け出し、庭園を散策していたヴァイスハイトとゲニーは声がした方向へ走る。デーアとアンジュを見つけたが、二人は手足を拘束され、何かを嗅がされたのか意識はなくぐったりとし、数人の男共に拉致されるところだった。

 ゲニーは咄嗟(とっさ)に詠唱し、(さら)おうとしてる誘拐犯達目掛けて手から炎撃を放つ。続けてヴァイスハイトも詠唱し、氷撃を放った。だか男共の転移魔法の方が早く、デーアとアンジュと誘拐犯達は光に包まれ目の前から消えていった。

「「くそっ!」」

 (くや)しんでる場合ではないと直ちにゲニーは高難易度の位置追跡魔法を使う。犯罪に利用されないよう誰もが使えないように難しく組み合わされた魔法で、魔法の方法も魔法団総帥から直伝という使える人が限られてる魔法だ。そして現在いるこの国の魔法使いで使えるのは片手で数えられる程しかいない。

 ふわふわと光り輝く鏡に映像がいくつか現れた。ライオンの銅像が立っている映像と、泉の(ほとり)の小さな小屋、そこに運び込まれるデーアとアンジュの映像だった。

「泉にライオンの銅像。二人はクヴェレ村の小さな小屋の中だ!」
「流石、稀代(きたい)の天才魔法使いと言われてるだけあるな」

 落ち着きがなく破天荒なゲニーだが、魔法の腕前はピカイチで既に同年代では右に出る者はいない。このままいけば国の魔法団総帥にでもなれるであろうと、ヴァイスハイトは確信している。

「褒めてる暇があるなら転移魔法詠唱しろ! ヴィー!」
「言われなくても!」

 二人は光に包まれその場から消えていった。
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