時を超えたラブストーリー

時を超えて

龍太郎が布団から目を覚ますと下半身が濡れている。夢精があるのは3年に一度あるかないのに龍太郎はひとり笑みをこぼした。今日は実習生でやって来た由美との川口学のライブの日である。龍太郎はカジュアルな服装と思ったがスーツにネクタイをしめた。。スーツを着るのは40年振りの出来事である。グループホームの前でワーカーの小池さんに写真を撮ってもらった。
 「由美。今日はデートかい」
「そう。川口学のライブ」
「帰りはお父さん。迎えに来て」由美は帰りは遅くなるので、父に心配はかけまいと配慮した。そこへ母がやって来た。
「どこにあったのかい」母は大きな温度計を持って来た。一週間前に床の間に置いていた。大きな温度計が行方不明になったのだ。どこを探しても見つからなかったのだ。
「お母さん。どこにあったの」
「動かした家具と壁の間に奇麗に挟まってた」
「そこは何べんも見たのにね」
「今日は、いい事あるよ」
「まかしといて」と言って由美はガッツポーズをして見せた。そこへ婆ちゃんがやって来た。婆ちゃんと言ってもまだ60と若い。婆ちゃんは一緒に行く。精神科病院でお世話になった人物に。不安になった。いくら、年配と言っても男である。
 「相馬さん。ライブ終わったら。迎えに来ますからね」ワーカーの小池さんは、ライブが終わるのはまだ明るいし。久しぶりの龍太郎の外出にOKを出したのである。とは言っても、内心は心配でありライブ会場の近くの喫茶店で待つ事にした。
 「相馬さんまだ時間あるわね」
「ええ」
「相馬さん。田中由美さんに恋したの」
「まさか」龍太郎はワーカーの小池さんにポツポツと語りだした。
「40年前の出来事は鮮明に覚えているんだ。今でも、愛したと言っても付き合ったのは二日間。一夜を共にして気がついたら、精神病院の隔離室にぶち込まれていた」
「相馬さん。全然覚えてないの」
「夢と現実が混ざっていて、今となってはかすかな想い出さ」
龍太郎たちはライブ会場の入り口に一足先に着いた。しばらくすると遠くの方から由美が視界に入った。
「待った。まだ時間あるわね」
「由美ちゃん。川口学に首ったけ」
「どうかな・・・・・」
「相馬さん。私。そんなに愛した人に似ているの」
「もう、40年も昔の出来事だ。曖昧な記憶の中に、でも、あの女性の面影は忘れない」
「そんなものかなあですね」
「私の祖母も相馬さんと同い年です」
「そうか、他界したって言ってたね」
「昨日、婆ちゃんに聞いたの。爺ちゃんの事」
「40年前といや私と同じ頃だ。亡くなったのは」
「お婆ちゃんね。その爺ちゃんとは。運命の赤い糸を感じたんだって。それが。爺ちゃんとは、付き合ったのは。ほんのわずかな時だったんだって。それから先は婆ちゃんは涙が止まらなかった」相馬龍太郎は。自分と同じ世代の由美の祖母に会ってみたくなった。
「お婆ちゃん。ライブが終わったら、迎えに来るよ」龍太郎はまだ見ぬ由美の祖母にトキメキを感じた。やがて川口学のライブが始まった。龍太郎は演奏を聴きながら、昔の出来事を思い浮かべていた。ライブ会場の入り口には。由美の祖母康子が迎えに来ていた。康子は60とは見えない顔立ちである。見る人にとっては40代半ばに見える。康子はパパと呼ぶはずだった。龍太郎。その名を心の中で叫んだ。
「相馬龍太郎」
「由美の婆さんの旧姓は片桐康子」
まだ。婚姻届け等出せる状況ではなかった。なにせ、二日間のお付き合いである。その一夜を共にした夜に。由美のお母さんを授かったのである。
 相馬龍太郎59歳は。由美の婆さん田中康子の顔を見た瞬間に。40年の記憶が猛スピードで加速した。瞬間に。婆さんの口から。
「龍太郎さん。相馬」龍太郎もすぐ反応した。二人は40年の時を超えて再会した。二人は秒速で二十歳の面影に衝突する。
「えっ」それ以上に驚いたのは由美でもある。3人は同時に叫んだ」
「孫」
「もう時間がない。会場に入るよ」婆ちゃんの声が飛んだ。前奏曲が流れてきた。それは、尾崎豊の「I LOVE YOU」から流れてきた。由美は咄嗟のはからいで、二人を最後尾の席に座らせた。周りには誰も座席に座ってる人達はいない。龍太郎が由美の顔を伺うと由美は龍太郎に向けて、ウインクをした。天使のウインク。龍太郎は慣れない手つきで康子の身体を引き寄せた。龍太郎の震える手が康子の鼓動に伝わった。「龍太郎と康子の唇が重なり。曲が終わるまで余韻に酔いしれた。

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