積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「栞ちゃんに電話したんだけど、連絡が付かなかったのよ。でも諒に電話したら繋がったから、迎えに来るように言っておいたからね。もう少ししたら着くはずだから、それまではとりあえず、泣きたいだけ泣いておきなさい」

凜はなだめるように、なぐさめるように、私の背中を優しく撫でた。ため息交じりのつぶやきが、耳の側を通り過ぎる。

「この前会った時は幸せそうな顔してたのに……。これはもう、男がらみでしかないわねぇ。……あら、意外と早かったわね」

凛の声に、諒が来たことが分かった。

諒は明らかに戸惑った声で言う。

「何なんだ、瑞月のこの状態は。いったい何があったんだ?」

凛の苦笑交じりの声が聞こえた。

「さぁねぇ、何があったのかしら……。ま、だいたいの予想はついてるけどね」

頭の上で交わされている二人の会話を、私は夢うつつで聞いていた。聞き慣れた声に安心したのだろうか、瞼が重たくなってきた。

もうダメだ……。

そう思う間もなく、盛大に流した涙の跡もそのままに私はくたりとテーブルの上に突っ伏した。かろうじて生きていた意識が薄れかける。

諒の呆れ声が聞こえる。

「まったく、世話が焼けるな……。車さ、すぐ近くのパーキングメーターの所に停めてきたんだ。凜、悪いけどそこまで手伝ってくれないか」

「もちろんよ。酔っぱらいっていうのは、とにかく重たいものね」

よいしょ、という掛け声が聞こえたと思った。けれどそれきり私の意識は途切れてしまったようで、最後に覚えているのは懐かしいような匂いと温かさだった。
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