積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
諒の言う通り、栞の結婚式があった頃、確かに私は幸せだった。彼と付き合って一年以上がたち、まだ結婚の話は出ていなかったけれど、近い未来もきっと明るいものになると信じていた。しかしそんな日々も将来も、彼の浮気が原因で終わってしまった。

幸せだと思っていた頃のことがふと思い出されて、涙がこみ上げそうになった。ともすれば流れ落ちそうになる涙を見られたくなくて、私は両手で顔を覆う。

けれど本当は、誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない。私は口から言葉がこぼれるがままに任せた。

「……彼が浮気していたの。魔が差したんですって。私と別れるつもりはないなんて言っていたけど、一度や二度の浮気くらいなんてことない、なんて言って彼を許せるほどの広い心、私は持っていない。そのことを忘れたふりをして、これまで通りに付き合い続けることなんてできないよ。私、男の人を見る目がなかったのかな。それとも、そこまで彼のことを愛していなかったってことなのかな……」

「瑞月が男と付き合ったっていう話を聞いたのは、今回が初めてだったな」

諒が静かな声で言い、私の髪をそっと撫でた。

予想外の事態のせいで、本当なら顔を見るのも恥ずかしいはずの諒を相手に、どうして私はぺらぺらと自分の失恋話をしているのだろう――。

冷静にそう思いはしたが、私に触れる諒の手があまりにも優しくて、それに促されてしまったかのように言葉が止まらなくなる。
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