積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「私、男の人と付き合ったことがなかった。学校は女子校だったし、勉強ばっかりしてた。恋愛に興味がなかったわけじゃないけど、あの頃は知らない男の子に会うのは怖くて、そういう場は避けてた。大学生の時は特に好きだと思える人もいなくて、男性経験もないまま社会人になった。そんなだから、上手に恋愛もできなくて……」

「恋愛に上手いも下手もないと思うけど」

諒は私の髪を撫で続ける。昔は、そうされる度に子ども扱いされることを不満に思い、文句を言っていた。それなのに、今は心地よくて安心できた。その感触に気持ちが解けていくような気がした。私は顔を覆っていた手をよけて、目を瞑ったまま口元に笑みを刻む。

「今夜は迷惑かけて本当にごめんなさい。色々と反省してる。……もう、帰るね」

私は体を起こして、諒に背中を向けた。

諒が引き留める言葉を投げてよこす。

「もう遅い。このまま泊まっていけよ」

「そういうわけにはいかないよ。私の部屋まではそんなに遠くもないから、帰る」

「待てよ」

諒が私の手を掴んだ。

「せっかく無事に連れ帰ってきたのに、こんな時間に一人で帰せるわけがないだろ」

「大丈夫だったら」

「だめだ」

そう言うと、諒は私をベッドの上に押し倒した。

「帰して」

「だめ、帰さない。俺、明日は休みだから、送ってくよ。……ところで瑞月」

私の頬を撫でながら、諒はその目を優しく細めた。
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