積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「分かったよ。もうすぐ帰れるから」

俺は電話を切ると、ロッカーから手荷物を入れたリュックを取り出して肩にかけた。

廊下に出たところで、同じ診療科の先輩と会う。

「あれ、久保田先生?これから帰るところ?」

「お疲れ様です。はい。ちょっと事務書類がたまってしまっていたので、その整理をしていました」

「それはお疲れ様。――ところでさ、ほら、なんて言ったっけ?医療事務のなんとかサービス。そこの人がさ、今日の午後の診療が終わった後、ナースとかに久保田先生のことをまた色々聞いてたみたいだぞ」

「私のこと?」

「そう。先生は今日は何時頃帰るのかとか、付き合ってる人はいるのかとか、趣味は何だとか、他にも色々。だけどみんな忙しいからね。適当にあしらわれてたみたいだったけど」

「そう、ですか。また……」

「久保田先生のファンか何かなんだろうけどね。最近も色々あったじゃない?ちょっとストーカーじみたことがさ。先生の車のこととか、医局周辺の徘徊とかさ。絶対に気を付けた方がいいよ」

俺の車の周りをうろついていた彼女を目撃したのは、この先輩だった。

俺は頭を下げた。

「ご心配頂いてありがとうございます」

「久保田先生みたいなイケメンはさ、さっさと身を固めちゃえば、きっとそういう面倒から解放されるよ」

イケメンって……。

先輩は別に嫌味を言っているわけではないのだろうが、反応に困り俺は首をすくめて苦笑した。

「はぁ、頑張ります」

「それに結婚っていいものだしね」

実感がこもってるな、と思ったのもそのはずで、先輩は最近結婚したんだった。

「それじゃあね。あ、明日は先生休みだったね」

「はい。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。では私はこれで。お先に失礼します」
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