【加筆修正中】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
 お菓子作り初心者にしては、上手に手際よくでき上がったと思う。

「あとは、ラッピングして終わりね。それにしても、ほんとに初めて作ったの?すごくきれいにできてるよ」
「瑞月のおかげだよ。お茶でも飲みながら、味見しよう」
「いいの?」
「いいに決まってるでしょ。そのために少し多めに作ったんだもん。瑞月に食べてもらって、感想を聞かないとね。飲み物は紅茶でいい?」
「うん。じゃあ、パウンドケーキも一緒に味見しよう」

 ケーキクーラーの上で冷ましておいたパウンドケーキの表面に、そっと触れてみた。粗熱が取れたようだ。本当は一日くらい置いた方がしっとりと落ち着くのだが、焼き立ても美味しい。そう言えばと、飲み物を持ってきてほしいと言っていた諒の言葉を思い出した。

 お茶と一緒にこれも持って行ったら食べてくれるかな――。

 そう思った時、栞に訊ねられた。

「瑞月は誰かにあげないの?バレンタイン・チョコ」
「お父さんと、凛ちゃんくらいかなぁ」
「うちのお兄ちゃんには?」

 私は目を瞬かせた。

「諒ちゃんは毎年のようにたくさんもらってくるでしょ?食べきれないからって、私たちにまでくれるじゃない。そんな人にさらにあげたりするのは迷惑だろうし、第一それ以上いらないでしょ」
「お兄ちゃん、かわいそうだなぁ」
「どうして?」
「だって、可愛い幼馴染から、チョコをもらえないなんて」
「そんな大げさな……。だったら可愛い妹の栞があげればいいでしょ」
「だから味見させてあげるんだよ」
「味見って……」

 苦笑する私に、栞は真顔になった。

「ねぇ、瑞月って、お兄ちゃんのこと、どう思ってる?」
「どうって……」

 私は小首を傾げた。

「諒ちゃんは幼馴染で、栞のお兄ちゃんで、私にとってもお兄ちゃんみたいなものよ」
「それだけ?」
「それ以外に何かある?」
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