積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
その日のことを思い出して、私は何度目かのため息をつく。

借りたものを洗って返すだなんて、考えなけりゃ良かった――。

「洗ったはいいけど、いつ返そうか」

部屋の片隅にずっと置いたままになっている紙袋に目をやる。中身はあの夜に借りた諒の部屋着とタオル類だ。

「恋人役、ねぇ……」

諒の彼女のふりをするのは初めてではない。学生時代にもそんなことがあった。ただその一件は、私が偶然その場にいたからそういうことになっただけだった。けれど、今回は以前のケースとは勝手が違う。諒の求める恋人役の演じ方が今一つ分からない。

それとも、と私は考えを巡らす。

実はあの「恋人役」云々は諒の質の悪い冗談だった、とか?冗談だから連絡がないのでは?あるいは諒もあの夜のことを猛省していて、私に合わせる顔がないために連絡できずにいたり?

そんなことを考えて、私は急に不安になった。

このまま疎遠になったりはしないよね――。

あの夜のことが忘れたい事件であるのは確かなのだけれど、もう二度と諒に会いたくないというわけではなかった。これまで何十年間という長い時間、ずっと積み重ねてきた大切な関係だ。自分の、あるいは互いの暴走が原因だとしても、これきり会えなくなるかもしれないとは考えたくなかった。

私の方から、連絡してみようか――。

私は携帯を手に取った。

諒は普段あまり自分からは電話をかけない。仕事柄帰宅時間が不規則だからと言って、メッセージの方を好んで使っている。
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