積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
切れた電話に向かって文句を言いながらも、私はほっとしていた。もう会えないわけじゃないのだと思ったら安心した。この前のことは大事故だったが、互いに飲み込み時間をかけていけば、また、これまで通りの関係でいられるかもしれない――そんな希望を抱いた。

「とりあえず、ご飯ね」

私はエプロンを着けて、キッチンに入る。冷蔵庫の中をざっと見て、ご飯の残りと卵、ハムを取り出す。冷凍のミックスベジタブルを買ってあったことも思い出した。

「なんでもいいんだよね。あ、でも……」

諒はニンジンが苦手だった。はじめに考えていたものから予定を変えることにして、私は早速料理に取り掛かった。

インターホンが鳴ったのは、出来上がったいくつかの料理を皿に盛り付け終えた時だった。

玄関に出て行ってドアを開けると、私を見た諒がにこっと笑った。

「ただいま」

そう口にする諒につられて、私もつい答えてしまった。

「お帰りなさい」

「お、本当の恋人同士みたいだ」

「やめてよ」

文句を言いながらも私は困惑していた。

恋人役の話は冗談ではなかったの?

つい言いそうになったが、嬉しそうな諒を見てやめた。

「部屋、入っていい?」

「え、あ、うん。どうぞ。ご飯もちょうどできたところ」

「お邪魔します」

礼儀正しい諒を見ていたら、あの夜のことは私の夢だったのではないかと思えてくる。それほどまでに、あの時の諒は別人のようだったから。
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