積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 諒は照れた顔で笑い私の隣に立つ。母に向かってきっちりと頭を下げた。

「お久しぶりです」

 諒の声に、母はようやく我に返ったようだった。はじめは戸惑っていたものが、徐々に腑に落ちたような表情へと変わり、最後に嬉しそうに頷く。

「そういうことだったのね。瑞月ったら、会わせたい人がいるとしか言わないんだもの。とにかく入ってちょうだい。どんな人を連れてくるんだろう、って、お父さんも首を長くして待っていたのよ」

 私はほっとした。母の様子を見る限り、諒とのことを反対されるようなことはなさそうだ。彼と並んで母の待つ玄関へと足を向ける。

「お邪魔します」

 さすがに諒の声には緊張がにじんでいる。
 一方の私は照れ臭い顔で母に言った。

「ただいま」

 母はにっこりと笑った。

「お帰り。諒ちゃんも、いらっしゃい。先日は瑞月が本当にお世話になって、ありがとうございました。ところで今日、そちらのお家には?もう行ってきたの?」
「いえ、これからです。まずはこちらにご挨拶を、と思いまして」
「そうなの。ありがとう。さぁ、とにかくどうぞどうぞ」
「失礼します」

 諒は固い声のまま軽く一礼して玄関に入り、靴を脱いだ。用意されていたスリッパに足を入れてから、ふと周りに目をやって感慨深げにつぶやいた。

「こんな風にここの玄関を入る日が来るなんてな」
「子どもの時は、結構自由に出入りしてたよね」
「今思えば、失礼だったよな」

 当時のことを思い出して笑い合う私たちを、母は微笑まし気に見ていたが、思い出したように言った。

「お父さんが待ってるわ。二人ともリビングへどうぞ」
< 136 / 166 >

この作品をシェア

pagetop