積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「え……」

私は瞬きをして諒を見た。

言われてみればそうかもしれないと思った。あまりに衝撃的で怒涛の展開だったから、傷ついたままでいる暇がなかった気がする。

諒はくすっと笑うと椅子から立ち上がった。

「さて、と、そろそろ帰るよ、片づけないで悪いけど」

「うん……」

私も立ち上がり、諒を見送るために彼の後ろに着いて玄関に向かう。

途中で足を止めた諒が振り返った。

「あのさ。また、前みたいに、たまにお前の飯が食べたい」

「でも……」

「今日久々にお前の手料理食べたら、また、って思ってしまった。余り物でもいいからさ。……だめ?」

諒は身をかがめて私の顔を覗き込んだ。

距離が近すぎて、どきりとした。私は目を伏せて口ごもりながら答える。

「で、電話もらったら、できる時は、用意してあげてもいいよ」

「うん。その時は電話する」

諒は嬉しそうに目を細めると、私にキスをした。

「キスしていいなんて言ってないよ」

はっとして体を引きながらそう言った私の声は、自分でも呆れるほど弱々しかった。

諒は微笑んで私を見下ろす。

「普段からこうしてた方が、そういう場面になった時、恋人同士らしく振舞えるだろ?それじゃあ、またな。戸締り、しっかりしとけよ」

諒は靴を履いてドアを開けると、笑顔を残して帰って行った。

恋人役って、普段からそういう感じでいてほしいっていう意味なの――?

諒を見送った後の玄関で、私は小刻みに鳴る心臓の音に耳を傾けていた。彼に抱かれたあの夜をきっかけに生まれた感情が、形を成しつつあるのが分かった。
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