【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
 私はきょとんとして栞を見返した。どうして急にそんなことを言い出したのか謎だ。
 栞は私の答えを聞いて、ため息をついた。

「なんだ、残念……」
「残念って何が?」
「なんでもない」

 この話はもう終わりというように栞は首を振り、声を明るくした。

「さて、と、お茶だっけ?仕方ない、持っていってやるか」
「私が持って行ってあげるよ。栞のチョコ、味見してもらうんでしょ?このパウンドケーも一緒に味見してもらおうと思うの」

 栞はくすっと笑った。

「瑞月が作ったものなら、美味しいって言うに決まってるよ。あたしのチョコの存在が霞んでしまうわ。――紅茶、今用意するね」

 栞が用意した紅茶と、トリュフチョコとパウンドケーキを乗せた小皿をトレイに並べる。それを持って、私は慎重な足取りで階段を上って行った。
 諒の部屋の前に着いて、私はドアを静かにノックした。少し待っていると、諒が顔を出す。私を見て微笑んだ。

「できたのか?」
「うん。栞のチョコと、私が作ったパウンドケーキ。食べたら後で感想教えてね。はい、これ」
 
 トレイごと差し出す私に、諒は開けたドアを支えながら言う。

「そこのテーブルに置いてもらえる?」
「え、うん。お邪魔します……」

 小さな頃にはよく入ったことのある部屋だが、彼が中学生になってからは立ち入ったことがない。思っていたよりもきれいに片付いていて、少し驚く。どちらかというと綺麗好きな方だったかしら、などと昔を思い出しながら、私はおずおずと足を踏み入れた。彼が目で示した小さなテーブルの上にトレイを置く。

「それじゃ、行くね」
「もう?味の感想は聞いていかなくていいのか?」
「後でいいよ」
「ちょうど休憩にしようと思っていたところなんだ。これを食べ終わるまででいいから、少し話し相手になってくれよ」
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