積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
少しだけ、嫌だなと思った。将司のことを今はもうなんとも思っていないのは確かだが、顔を合わせるのはやっぱり気まずい。おまけに、そこには将司の浮気相手だった派遣スタッフの幸恵もいるはずだ。

しかし、仕事だから仕方ない。気を取り直した私は課長から預かった資料をクリアファイルに入れて持ち、一つ上のフロアにある営業部へと向かった。

将司と付き合っていた時、そのことを周りに隠していたわけではなかった。だから、別れたかどうかを直接聞いてきた人間は今までのところ三人だけだったが、私たちの破局を知っている人は、結構いるんじゃないかと思う。そして勘違いでなければ、意味ありげな視線を感じることもあって、そんな時は居心地の悪さを感じたりもした。

営業部のオフィスに着いて、中の様子を伺う。将司はいないようだと確かめてほっとする。

「失礼します」

そう言いながら足を踏み入れて、部長の席へ足を向けた。すると、道を塞ぐように一人の女性が私の前に立った。幸恵だった。

彼女はわざとらしく小首を傾げ、グロスで唇を艶やかに光らせながら微笑んでいた。

「大原さん、お疲れ様です。将司さんに何かご用ですか?よろしければ、私が伺っておきますけど。将司さんは今、外出中なので」

幸恵は二回も「将司さん」と彼の下の名前を口にした。
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