積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
確か幸恵は将司にふられたはずだ。それに、私たちがもう別れたことだって知っているに違いない。

それなのに、わざとらしく言いに来たところが嫌らしく思われて、私は苛立った。もしも周りに誰もいなかったら、睨みつけてやりたいところだったが、そんなことはしない。今の私は将司とは何の関係もないし、彼に対する未練がましい気持ちも一切ない。だから私は仕事用の作り笑いを浮かべて、穏やかに彼女を見つめ返した。

「お疲れ様です、鈴木さん。わざわざ教えてくださってありがとうございます。ですが今日は、部長に用事があって伺ったんです。失礼しますね」

軽く会釈をして、私は彼女の側を通り抜けた。

その時、ちらりと彼女の指先が目に入る。すらりと伸びた長くて細い指、綺麗な形の爪は華やかなマニキュアで彩られていた。仕事場での装いとしてはどうなのかと思うが、ふんわりと綺麗に巻いた髪、フェミニンなブラウスと腰のラインも露わなタイトスカート。そこからすらりと伸びた脚に、思わずどきりとしてしまう。

この人が私と将司の関係を壊した張本人だというのに、彼女を見たら思ってしまった。

男の人って、やっぱり彼女のような色っぽい人に弱いのかしら?

そんなことを思ったら、諒の顔が思い浮かぶ。

諒ちゃんもそうなの?昔は派手な人は嫌いだと言っていたけれど、それは今も同じ――?

私は整えただけの自分の指先に目を落とし、もやもやした気分になった。

この時にはすでに、胸の内に生まれていた想いの先がどこにあるのかを、自分でもよく分かっていた。諒の好みの女性のタイプが気になり出したのが、何よりの証拠だったと思うのだ。
< 141 / 242 >

この作品をシェア

pagetop