積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 男の準備は時間がかからないからと言って、諒は先に自分の部屋へ向かい、荷物を準備した。その後私の部屋へ移動する。
 私はリビングに諒を待たせて荷物をまとめた。小さめの旅行鞄に着替えと旅行用のメイク道具を入れる。まとめ終えてから、まだしばらくは諒の部屋にいるかもしれないと考え、その分の着替えや洋服もついでに見繕って別のカバンに詰め込む。
 準備ができてクローゼットを閉める時、ふと思い出した。
 箪笥の引き出しの中に、いつか着ようと思いながらも勇気が出ずに仕舞いこんでいた下着があった。それは諒と付き合い出してからこっそり買った、いわゆる勝負下着というものだ。今さら勝負する必要はないと思うのだが、「今夜は特別な日だ」と言っていた彼の言葉が思い出された。

 今日のような日にこそ身に着けたら、諒ちゃんは喜んでくれるのかな――。

 そんなことを思い、はっとする。彼を喜ばせたいなどと積極的なことを考えたのは初めてで、自分でも困惑してしまう。けれど、こんなことで特別感が増すとは思えないが、たまには普段とは違う下着を身につけてみるのも悪くはないかもしれない。
 私はどきどきしながら、今つけている下着とその新しい下着とを交換する。全身を鏡に映して見て、自分でどきりとしてしまった。色は淡いピンク。可愛いデザインで、確かに特別感はあるけれど。

 やりすぎちゃったかな。諒ちゃん、こういうの嫌がらないかな……。

 急に不安になって、やっぱりもとに戻そうと下着に手をかけた時、ドアの向こうから諒の声が私を呼んだ。

「瑞月?そろそろ出たいんだけど、準備できた?」
「ご、ごめんなさい。今行く」

 慌てて答え、結局下着はそのままで、キャミソールとワンピースを急いで身に着けた。
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