積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「信じてほしい?私を裏切ったあなたの何を?私は心がそんなに広いわけではないの。それにもう、あなたのことはなんとも思っていないんです。だから、本当に今度こそさようなら。私のことは忘れて。電話もメッセージも二度とよこさないで。それでもまだ連絡をよこすようなら、着信拒否するわ」

―― 瑞月!待って!

引き留めようとして、将司は私の名前を呼ぶ。

彼の声を無視して、私は電話を切った。その後はどっと疲れて、直に床の上に寝転がる。

あれだけはっきりと言ったのだから、さすがにもう諦めたはずだ。いや、諦めてもらわなければ困る――。

将司は営業で外に出ていることが多く、今は部署も違うから、社内で会うことは滅多にない。何かの時に顔を合わせる可能性はゼロではないけれど、あとは時間が解決してくれるはずだと、期待半分にそう思っていた。そして、その日を境に、彼からの連絡はぱたりとやんだ。

さすがに最後の電話で将司もついに諦めたのだろう、もう大丈夫だろうと、私は胸を撫で下ろした。厄介だった電話やメッセージから、ようやく解放されたと安心した。

しかし、それは私の思い込みだったらしい。

将司と別れてから、およそ一か月後のある日のことだった。

この日、私は少しだけ残業となった。会社のビルから外に出て、何気なく取り出した携帯を見て、諒からのメッセージに気がついた。

『迎えに行くから食事に行こう。後で電話する』

私の予定も確認しないで、と文句を言いたくなりながらも、私の口元は綻び、足はマンションに向かって急いでいた。植え込みの陰から人が突然現われたのは、エントランスに続く階段に足をかけようとした時だった。

その人物は私の名前を口にする。

「瑞月」

街灯に照らされて立っていたのは将司だった。
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