積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
店に入ると、カウンター席しか空いていないと、店員は申し訳なさそうに言う。

「どうする?」

「全然構わないよ」

そう答えながら、諒の正面に座らなくてすむと、私は内心ほっとしていた。今夜の私は、幼馴染の顔で彼を真っすぐに見る自信がなかった。心がざわめいていて、きっと上手に表情を作れない。

一方の諒は穏やかな顔をしていて、何も変わった様子がない。

それを見たら、あの日からずっと私を翻弄し続けている張本人のくせに、と悔しさがこみ上げてくる。

「食べたい物、なんでも注文していいぞ。俺のおごりだから」

諒は私の前にメニューを広げる。

本当ならば、助けてもらった私が、諒に礼としてご馳走するべきなのだろう。しかし、私はいらいらしていた。だからと言って、彼にその気持ちを直接ぶつけるつもりはない。その代わり、私はメニューの中で一番お高いステーキコースを注文することにした。付け合わせにニンジンがついてくるらしい。

あとで無理にでも食べさせてしまおうか――そんな不穏なことを考えた。本当にはやらないけれど。

「これにする」

諒は目を瞬かせて、私とメニューを交互に見た。

「結構ボリュームあるみたいだけど、大丈夫なのか」

「余ったら、諒ちゃんが食べて」

「はいはい」

諒は苦笑を浮かべたきり何も言わず、店員を呼んで注文を伝えた。
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