積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
それなのに、諒はつぶやくようにぽつりと言う。

「……そんなのはない」

そのまま私の腰に腕を回し、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。

その弾みで私は諒に体を預けた格好になってしまった。彼の体温を感じて、息苦しくなる。

「特にお前に関しては、自信なんて全然ないよ」

耳元で囁く諒に、私は弱々しい声で抵抗の言葉を口にする。

「諒ちゃん、離してよ……」

けれど諒は私を抱いたまま、思い出したようにつぶやいた。

「俺たちって、今は恋人同士ってことになってるんだったな」

役を引き受けさせられた時のことが思い出されて、体が熱くなった。それを隠したくて、私はわざと皮肉を込めて返した。

「諒ちゃんが私を脅して、そういうことになっただけでしょ。それにこれは、ただの役だから」

「そうだよな。瑞月にとっては、ただの役、なんだよな」

諒の声の中に自嘲するような響きを感じた。その理由と今の表情を確かめたくて、私は彼を見上げた。

「いつの間にか俺たちしかいないんだな。……じゃあ、いいよな」

「いいって、何……」

その続きを言えなかった。言い切る前に唇を塞がれた。抵抗すればできたはずだった。けれど私は諒から逃げず、むしろ唇を緩めて応えてしまった。深く口づけられて体の奥が熱を持ちそうになった時、慌てて我に返り、彼の体を押し戻す。

諒はそれ以上強引にキスを続けることはせず、名残惜しそうに私から離れた。
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