積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
その日以降、特に瑞月に連絡はしなかった。忙しいというのもあったが、もしも瑞月の気持ちが揺れ始めているとしたら、あえて少し時間を置いた方がいいと思った。そうこうしているうちに二週間ほどがたち、瑞月に恋人役を務めてもらうタイミングが訪れる。

あの日、仕事を終えた俺はかの女性から待ち伏せされた。通用口を出てすぐにそのことに気がついた。

少し考えて、俺はこの場で瑞月に電話をかけることにした。もしも出なかったら、とはなぜか思わなかった。そして思った通り、瑞月はためらいを含んだ声で電話に出た。

二週間ぶりに訊く瑞月の声に、俺の胸の奥はじりっと熱くなった。当初の目的を思い出し、俺は言った。

―― これから行っていい?腹減っててさ。なんでもいいから食わせてくれないか。

この一本の電話で、帰りが偶然一緒だった先輩とかの女性に対して、印象付けることができたはずだ。俺には「それらしい存在」がいるということを。

その場を離れて帰路についてから、瑞月の部屋に行くのをやめたって良かった。けれど、声を聞いてしまったら、会いたい気持ちが抑えられない。あの夜のように触れることはできなくても、彼女を間近に感じたかった。

瑞月の部屋に向かいながら、俺は柄にもなくどきどきしていた。
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