積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
それでもやっぱり。

元カレとよりを戻したいわけではないのなら、せめてもう少しだけ。恋人のふりだってなんだっていいから、瑞月のいちばん近くにいさせてほしい。彼女に好きなやつができるまでの間だけでいい。離したくない、離れて行ってほしくない。

俺は高まる気持ちのままに瑞月を抱き寄せ、口づけた。

拒否されるかもしれないと思ったのに、瑞月は唇を緩めて俺を受け入れた。確かに俺を求めてくれていると感じる瞬間があった。だが、彼女は俺を押し戻して目を逸らし、元カレに言った言葉の意味を俺に問う。

もうはぐらかせないし、はぐらかすようなことはしたくない。俺は観念し、元カレに言ったことはすべて本当だと瑞月に告げた。

そして今度は俺の方から問いかけた。今の瑞月にとって、俺はまだ「幼馴染の兄」のままなのかどうかが知りたかった。

彼女の中で様々な思いが交錯していることが見て取れた。俺は瑞月の気持ちを確かめるように訊ね続けたが、その間もずっと彼女の瞳は迷うように揺れていた。何かと葛藤しているようで、俺への気持ちを聞き出すのに少々時間がかかった。

しかし、ようやく俺を「男として」好きだと認めたのか。明確な言葉にして言ってくれたわけではなかったが、彼女は「うん」と頷いた。

その瞬間の喜びは、きっとこの先もずっと忘れないだろう。

俺は改めて瑞月に自分の気持ちを伝えた。

お前を愛している。俺の本当の恋人になってくれ――。

瑞月ははにかみながら俺の口づけを受け入れた。そして、部屋に行きたいと言った俺に頷き、彼女は改めて俺の長年の想いに応えてくれた。

「諒ちゃん、大好きよ」

潤んだ瞳を俺に向けながら、瑞月は囁くように言った。その言葉は俺の耳に甘ったるい余韻を残し、思い出すたびに俺を幸せな気持ちで満たす。

このまま瑞月の隣でだらだらしたい……。

そうは思うが仕事が待っている。俺はそっとベッドを出て身支度をすると、一枚のメモに走り書きした。今夜も会いに来るから、と。その肌に俺の痕跡をいくつも残しはしたが、瑞月が目を覚ました時、俺の姿が見えないことでこの夜のことを夢だと思わないように。

瑞月の部屋の鍵の在処は、夕べのうちに聞いて分かっている。玄関を出た俺はドアポストに鍵を落とし、自分のマンションへ一度帰るべく恋人の部屋を後にした。

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