積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜

EP-20

瞼を開けて最初に目に入ったのは、白い天井だった。ぼんやりとした頭でここはどこかと考えた時、近くで女性の声が聞こえた。

「瑞月!」

聞き覚えのある声だ。

誰だったっけ……。

目を動かしたそこによく知る顔を認めて、私はつぶやいた。

「栞……?」

泣きそうな顔をしている、と思った。

「そうよ、あたし、栞よ。あぁ。よかった!」

「……今、何時頃?」

「今?えっと一時過ぎた辺りよ」

「私、階段から落ちたんだっけ……?」

「そう聞いてる。とにかく今看護師さんを呼ぶからねっ」

そう言って、栞はナースコールを押した。

しばらくして看護師がやって来た。私の様子を見ると、医者を呼ぶためだろう、病室を早足で出て行く。

「頭を打ったらしいって聞いてたけど、記憶はしっかりしているみたいね。ひとまず安心したよ」

栞がまだ歪んだ表情のままため息をつく。

「ここは?私、運ばれたの?救急車か何かで?」

「そうよ、救急車で。ここはお兄ちゃんがいる病院だよ」

自分も人から聞いた話だけど、と前置きして栞は話し出した。

「救急車に一緒に乗って来てくれた人は、瑞月と同じ部署の人だったみたいでね。凛ちゃんから連絡もらって駆け付けた時、その人から聞いた話よ。瑞月、非常階段から転落したらしいって言ってた。その時一緒にいた女の人が、慌てて救急車呼んだんだって。で、騒ぎになったらしくて、そこにやって来た彼女の上役らしい人から、そんな所で何をしていたんだって聞かれてたらしいんだけど、彼女、話をしている最中に瑞月がうっかり足を踏み外したんだって答えたらしいの。……だけどそれって、ほんと?」

栞の顔には疑いの色がにじんでいた。

「うぅん、本当のような、本当じゃないような……」

私はか細い声で答える。まだ霞がかっている頭でその時の記憶を辿る。こうやって思い出せるほどには、私の頭は大丈夫らしいと安心した。
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