積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
母は二人の言葉に表情を和らげた。

「本当に瑞月は恵まれてるわねぇ……」

「あのね、お母さん。少なくとも明日一日は入院だって。でも伸びるかも、だって」

「そう。でもその方が安心だわ。あぁ、そうすると、色々と必要になるかしらね」

栞が口を挟む。

「あのね、おばさん。ここの病院、入院セットっていうのがあるのよ。ひとまずはそれを買った方が早いと思うんだけど、どうかな?」

「まぁ、そんな便利なものがあるの?売店に行けばいいのかしら」

「あたし、付き合うよ。ところで、おばさんは今夜どこに泊まるの?」

「ひとまずは、近くのビジネスホテルを取ったの。入院が伸びるとなったら、瑞月の部屋に行くことにするわ。栞ちゃんも凜ちゃんも、もう帰ってくれて大丈夫よ。忙しいのに来てくれたんでしょ?本当にありがとう。落ち着いたら改めてお礼させてちょうだいね」

その時、ノックの音もなく突然ドアが開いた。

「瑞月!目が覚めたって聞いたんだけど」

諒が白衣の裾をなびかせて入って来た。

私が横になるベッドの前に集まる面々を見て、諒ははっとしたように足を止めた。

栞が眉を寄せて苦笑する。

「『先生』がそんなんじゃ、患者さんが動揺しちゃうよ」

「……確かにそうだ」

栞に言い返したりはせず、諒は苦笑いを浮かべた。

「諒ちゃん、今回はこちらの病院に瑞月がお世話になります」

そう言って、母が頭を下げた。

諒は穏やかな声で言う。

「頭、上げてください。とにかく、これくらいですんで本当に良かったです」

諒は私の傍まで来ると、軽く身をかがめた。

「特に肩とか背中辺りを強く打ったみたいだったけど、痛みはどうだ?」

「動けなくはないけど、動こうとするとものすごく痛い。大きく息をしようとする時も辛い」
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