積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「そう……。長く休むことになるなら、その間は家に連れて帰ろうかと思ったんだけど。こっちにいた方がいいのかしらね」

「さっきも言ったように、退院後は何回か通院してもらって、経過を見せてほしいんですよね。何もないとは思いますけど、仮に何かあったとしても俺が近くにいますから」

「あたしと凛ちゃんもいるよ」

母を安心させるように、栞と凜は二人してにっこり笑う。

「そう、ね。……分かりました。それじゃあ、諒ちゃん、いえ先生、よろしくお願いします」

そう言って頭を下げてから、母は感慨深そうな顔をして諒を見上げた。

「諒ちゃん、本当にお医者様になったのねぇ」

「えぇ、まぁ……」

諒は照れたように頭をかいた。

「でも、今回は本当にありがとう。栞ちゃんと凜ちゃんもそうだけど、諒ちゃんも近くにいてくれて、本当に良かったわ」

母は今度こそ本当に安心したのか、強張っていた表情を和らげた。

諒も頬を緩めて私を見つめながら言う。

「えぇ、本当に。近くにいられて良かった」

私は思わず目を瞬きながら諒を見返した。

そんな顔でそんな言い方したら、お母さんたちに気づかれちゃうんじゃないの……。

諒は私のもの言いたげな視線に気づき、はっとしたように数回瞬きをしてすぐに表情を戻した。

「それじゃ、これから午後の診察なので、俺はこれで。皆さん、あとは患者さんを休ませてあげてくださいね。瑞月、あとでまた様子を見に来るからな」

私は掛布団の中から顔を覗かせた。

「はい、先生」

諒は私にだけ分かる程度にわずかに目元を緩めると、急ぐような足取りで病室から出て行った。
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