積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜

EP-21

この病院の面会終了時間は五時となっている。

凜は諒が出て行ってから間もなく、栞は母の買い物につき合ってくれた後しばらくしてから、それぞれにまた来るからと言って帰って行った。

母も面会時間ぎりぎりまで私の傍にいて何かと世話を焼いてくれた。

「明日また来るからね。何か必要なものはある?」

「特にないかな。あ、そうだ、会社に連絡しないと……」

「ひとまずはお母さんから連絡入れておいてあげるから。あなたからは、少し動けるようになってからでも改めてかけなさい。ちゃんと伝えておくから」

「じゃあ、お願いします。会社の電話番号は――」

と、頭の中にある番号を母に伝える。

「それじゃあ、そろそろ行くわね」

「うん。お母さん、本当にありがとう」

私は母を見送ろうと、ベッドから体を起こそうとした。途端に全身に鈍い痛みが走り体をベッドの上に戻す。

「だめ、痛い……」

「あぁ、そのままでいいから。それにしても、階段から落ちちゃうだなんて、いったいどうしたらそうなるのかしら。ねぇ、瑞月。まさかとは思うけど、誰かに突き落とされたりしたんじゃないわよね?」

私は困った。

突き落とされたわけではないが、自分から落ちたわけでもない。しかし、本当のことを言ったら次々と追求が始まり、結果的に色々な意味で母が大騒ぎしてしまいそうで、怖くて口にはできない。

答えを持つように私の顔をじっと見ている母に、小声で謝った。

「ごめんなさい。心配かけて……」

「本当よ。うちから離れているっていうだけでも心配なんだからね。お願いだから、これ以上お母さんの寿命を縮めないでちょうだい」

ため息交じりに言う母に、私は素直に頷いた。

母は腕時計に目を落とし、時間を確かめるとのろのろと立ち上がった。
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