積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「そろそろ面会時間が終わるから、お母さん、帰るわね。ちゃんと大人しくしてるのよ。お医者さんと看護師さんの言うこと、ちゃんと聞いてね」

「分かってるよ。私はそこまで子どもじゃないんだから」

「それはそうなんだけどね。――それじゃあ、また明日来るからね」

母は最後にもう一度深いため息をつくと、名残惜しそうな顔で病室を出て行った。

病院には患者の身の回りを手伝ってくれるスタッフさんがいる。申し訳ないと思いつつ、体を思うように動かせない私はその手を借りて食事を取り、洗顔を済ませた。

問題はトイレだった。個室の中にあったからまだよかったが、そこまではほんの数歩の距離なのに、とてつもなく遠かった。しかし生理現象には勝てない。激しい痛みと戦いながらトイレに向かい、なんとか目的を達成する。ベッドに戻った時には激痛と疲労とでぐったりだった。

消灯まではまだ時間があったが、何かをする気力もない。全身が痛いのもあるけれど、今日は色々とありすぎて、神経が昂っているからか眠くもならない。

痛み止め、もらった方がいいかな……。

そんなことを思いながらぼんやりと天井を見上げているところに、遠慮がちなノックの音が聞こえた。看護師さんが回って来たのだろうかと思い、目だけを動かしてそちらを見る。

病室に入って来たのは、白衣姿の諒だった。

「諒ちゃん……?」

みんながいた時にはそんなことを考えている余裕などなかったが、今になって改めて、そしてしみじみ思う。

本当にお医者さんなんだね。すごく勉強してたもんね――。

そんな感慨を抱いていると、諒は心配そうに表情を曇らせて私の顔を覗き込む。

「どうだ、具合は。やっぱり、薬、出すか?」

「うん、できればほしいかな。我慢できるかと思ったんだけど、トイレに行くのも一苦労で……」
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