積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「さて、と。間もなく消灯の時間だな。後で薬を持ってきてくれるようにナースに伝えておくからな。また明日の朝、様子を見に来る」

「うん、ありがとう」

「早く良くなりますように」

諒は私の手を両手で包み込むと、指先に口づけた。

その時ガラリとドアが開き、私たちは慌てた。

「大原さん、消灯ですよ。電気消しますね。……あらっ?久保田先生?」

その声の主は驚いたような声を上げる。

「あ、はい。お疲れ様です。えぇと、帰る前にちょっと患者さんの様子を見に……。師長はまだお帰りじゃなかったんですね」

諒の口調が、どことなく焦って聞こえる。

そう言えば、もともと恋人役から始まった私たちだったけれど、今は本物の恋人同士。それならば、堂々とそういう顔をしていた方がいいのかしら?そもそも、周りにそれと思わせるためのものだったはずだし……。

私はそんなことを考えながらも、気恥ずかしさに火照りかけた顔を掛布団の中に半分以上隠した。

師長と呼ばれた優し気なたたずまいのその人は、何かを察したような顔をしたかと思ったら、口元を可笑しそうに緩めた。

「先生、そんなに挙動不審にならなくても大丈夫ですよ。もしかして、噂の方なんですか?」

「噂、ですか?」

「いえね。最近久保田先生の表情が柔らかくなった、絶対にいい人ができたんだって、若い子たちが話していましたから。だから、もしかしてその原因の方なのかな、なんて思って」

「そうでしたか、噂ねぇ。知らなかったな」

油断したな――。

そんな風につぶやいて見せる諒だったが、内心では計画通りだと思っていそうだ。しかし表向きは観念したような顔で師長に笑いかけ、私を見てから言った。

「師長にだけ言いますけど、仰る通り、彼女は俺の大事な人なんです」
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