積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「諒ちゃん、あの……」

その言葉につい反応してしまった私は、いつものように彼の名前を呼んでしまった。ここでは先生と呼ぶべきだったかと反省している私に、師長は柔らかい笑みを浮かべてみせた。それから諒に言う。

「大原さんがその方だということは、一応内緒にしておきますからご安心くださいな。とはいえ、少なくとも診療科のナースたちは、先生の様子から気づいているかもしれませんね。だから、隠す意味はないような気もしますけど。まぁ、それを知ったからと言って、仕事放棄するような人間は、ここにはいませんから。ただ、からかわれるくらいは覚悟した方がいいかもしれないわね」

「できればお手柔らかにお願いしたいですね」

苦笑を浮かべる諒に、師長は口調を変えて告げた。

「さて先生、ほんとにもう消灯の時間なのでお帰り下さい。ご心配なのは分かりますけど、ちゃんとこちらで看護しますから。私たちが優秀なのは、先生もご存知でしょう?」

「はい、そうですよね。あぁ、そうだ。この後彼女に痛み止めを処方するので、すみませんが後でここに持ってきてもらっていいですか?」

「はい、了解しました」

「それでは、後はお願いします。瑞月、おやすみ」

師長の前では完全にもう隠すことをやめたのか、諒はいつものように私の名前を口にする。

第三者がいる前なのにと、私の方は少し照れ臭く思いつつ言葉を返す。

「おやすみなさい」

「電気消しますね」

その声に遅れて部屋の照明が落とされた。

諒は私を一度だけ振り返り、薄暗くなった病室から師長と一緒に出て行った。
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