積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「瑞月や凛ちゃんみたいに、ぱぱっと料理して出してあげられたらいいんだけどね。料理教室に行き始めたはいいけど、なかなか身にならない」

そう言って栞は、あははと自虐的に笑う。

「そんなことないでしょ。いつだったかな。栞が作ってくれた麻婆豆腐、美味しかったよ」

「そう言ってもらえると嬉しいけどさ」

「栞のとこ、いいじゃない。旦那さんがお料理上手で」

「うん、それは確かに。すごく助かってるよ。仕事で疲れた時とか、これから料理しなきゃならないのか……とか思わなくていいんだもん。あたしの方が残業で帰りが遅くなった時でも、ちゃんとご飯が出てくるからね」

「栞さ、小学生の時だったかな、諒ちゃんと口げんかして言ってたよね。今どきは料理ができる男子がモテるとかなんとか、って」

「そういう意味では、まさにそういう人を選んだわね、あたし」

満足そうに、けれどちょっと照れたような顔で頷いている栞を、可愛いなぁと思いながら見つめた。

すると、なんの前触れもなく栞が言った。

「で、いつからなの?」

何がいつからなのか分からず、私の口からは非常に間抜けな声が出た。

「へ?」

栞がにやにやと笑っている。

「とぼけなくてもいいから」

「だから、何がなの?」

きょとんとして訊き返す私に、栞は一文字一文字区切るようにして言った。

「お・に・い・ちゃ・ん」

「えっ!」

私は動揺して動きを止めた。

栞は可笑しそうにくすっと笑う

「あの日の病室での二人の様子。あたしが気づかないとでも思った?付き合ってるんでしょ?うちの愚兄とさ」

私はしばらく目を泳がせた後、首を縦に振って肯定した。
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