積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「え、と、あの……うん。実は、そうなの。でもね、隠してたわけじゃないんだよ?えぇと、本当に色々あって、それで話すタイミングがなかったというか……」

言い訳しようとしているわけではないが、説明するのにおろおろしてしまい、舌がもつれそうになる。

栞のくすくす笑いは止まらない。

「どうして言ってくれなかったの、とか言うつもりはないよ。お兄ちゃんには、おめでとうって言っていいんだろうな。瑞月には、これから兄をよろしくって言えばいい?」

「諒ちゃんには『おめでとう』って、どういう意味?」

「お兄ちゃんはさ、瑞月のことをだいぶ昔から好きだったみたいなのよね。だけど肝心の瑞月の方は、全然なんとも思っていなかったよね。あたしね、お兄ちゃんをかわいそうだと思ってずっと見ていたの。早く瑞月が気づいてくれたらいいのにな、ってね」

私は目を瞬かせた。

「そうだったんだ……」

諒が私をずっと好きでいてくれたことを、当の本人である私の方はまったく気づいていなかった。けれど、栞は早くから諒の気持ちを知っていたわけだ。思い返してみれば、昔そんな意味深なことを言われたような気もする……。

「だからそういう意味で、お兄ちゃんには『おめでとう』ってわけ」

栞はにこっと笑い、それから続けた。

「で?結婚とか考えたりしてるわけ?」

「うぅん……。付き合い始めてから、まだそんなに時間もたっていないから……」

私は曖昧に笑い首を傾げた。

「あたしとしては、このまま二人がうまく行くといいなって思ってるんだけどね。しばらくは静かに見守ってるよ。――そろそろ帰るわ。一緒にご飯できなくてごめんね。近いうちにまた来るから。ん?いや、来ない方がいいのか?」

首を捻る栞に私は苦笑した。

「そんなこと言わないで、また来てよ」

栞はにっと笑う。

「邪魔にならない程度に来るね」
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