積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
学生時代、巻き込まれて諒の恋人のふりをしたことがあった。変な言い方になってしまうが、その時諒に付きまとっていた人は、ある意味ポジティブだった。付き合っている証拠を見せろ、それを見たら諦めると言ったりする、ひどく諦めの悪い面倒な人だった。けれど、ひとまずその証拠――私にとってはショッキングなものだったが――を見せたら、自分で言った通り、それきり諦めるようなタイプの人ではあった。

でも、もしも諒が言っていた人だとしたら――。

決めつけるべきではないのは分かっている。けれど考えてしまう。諒から話を聞いた時の彼女の印象は、どちらかというと物静かな人で、陽というよりは陰のタイプに思えた。そう思ったら、さっきはまた巻き込まれるのかとうんざりしたものの、今は背筋にひやりとしたものを感じてしまう。

それに、ぞくりとした悪寒を感じる理由は他にもあった。

本当に彼女なのか、それとも別の誰かなのかはまだはっきりとは分からないが、その人物は私のことを確かに知っている。宛名のない封筒が私の郵便受けに直接入っていたということは、私の部屋も確実に把握している。

怖い――。

電話が鳴ったのはその時だ。

普段は、非通知や自分の携帯のアドレスに未登録の番号には出ないことにしている。それなのに、怪文書に気を取られていたせいかうっかり出てしまった。

「……もしもし?」

電話はすぐに切れた。

不審な手紙が届いたばかりの非通知の電話に、全身がすっと冷えた。我に返ると、いつも以上に念入りに戸締りを確かめる。

諒は今夜当直だ。

彼が来ると分かっていれば心強いのに――。

そんなことを思いながら、私は心細さを忘れるように夕食の準備に取り掛かった。
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