積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜

EP-1

「また捻挫だって?」

そう言って部屋に入って来たのは、近所に住む諒だった。 

気の置けない四才年上の幼馴染に、私は唇を尖らせてみせる。

「どうせ、そそっかしいって笑いに来たんでしょ」

「心配で顔見に来たに決まってるだろ。ほら、これ。凛から預かってきた」

「何?」

「見舞いのクッキーだって。用があって来れない代わりだってさ」

「わぁ、ありがとう。後でお礼の電話入れなくちゃ。そうだ、栞にこれ、渡してもらってもいいかな?」

そう言って私は紙袋を差し出した。

「何、これ」

「お菓子のレシピ本」

「ふぅん」

諒はたいして興味もなさそうな顔でそれを受け取ると、部屋を出て行こうとした。

そこへ母がやって来る。

「あら、諒ちゃん、もう帰るの?ジュース持ってきたんだけど」

「あ、すみません。気を遣わせちゃって。俺、これから塾なんです。今日は瑞月に渡すものがあったから、ちょっと顔を見に寄っただけで」

「そうだったの。わざわざありがとう。お勉強、頑張ってるのね。将来はやっぱり、お医者さん?」

「ま、そうなれるように頑張ってるつもりですけど。――それじゃあ俺はこれで。お邪魔しました。瑞月、早く治せよ」

「うん、ありがとう。またね」

私は床に座ったまま諒に手を振った。
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