積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
諒は照れた顔をして笑い私の隣に立つと、きっちりと頭を下げて母にお辞儀をした。

「お久しぶりです」

諒の挨拶に、母はようやく我に返ったようだった。戸惑いを残しながらも、次第に腑に落ちたような顔となっていき、最後には嬉しそうに頷く。

「そういうことだったのね。瑞月ったら、会わせたい人がいるとしか言わないんだもの。とにかく入ってちょうだい。どんな人を連れてくるんだろう、って、お父さんも首を長くして待っていたのよ」

母の様子を見る限り、諒とのことを反対されるようなことはなさそうだ。ほっとしながら、諒と並んで母の待つ玄関へと足を向ける。彼を先に促して、私もその後に続いて中に入った。

「お邪魔します」

さすがに諒の声には緊張がにじんでいる。

私の方は照れ臭い顔で改めて母を見た。

「ただいま」

母はにっこりと笑って言った。

「お帰りなさい。諒ちゃんも、いらっしゃい。先日は瑞月が本当にお世話になって、ありがとうございました。ところで今日、そちらのお家には?もう行ってきたのかしら?」

「いえ、これからです。まずはこちらにご挨拶を、と思いまして」

「そうなの。ありがとう。さぁ、とにかくどうぞどうぞ」

「失礼します」

諒は固い声のまま軽く一礼して、靴を脱いだ。用意されていたスリッパに足を入れて、ふと周りに目をやり感慨深げにつぶやいた。

「こんな風にして、ここの玄関を入る日が来るなんてな」

「子どもの時は、結構自由に出入りしてたよね」

「今思えば、失礼だったよな」

私たちは、その頃の思い出話を口にして笑い合う。

その様子を見ていた母がくすっと笑い声をもらした。

「す、すいません」

はっとして恐縮する諒に、母は笑顔のまま言った。

「昔からずっと変わっていないでしょ?さ、リビングにどうぞ」
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