積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
母の後に着いてリビングに向かうと、父はソファに腰を下ろして新聞に目を落としていた。私たちの姿に気がついて、笑顔を見せる。

「諒君、久しぶりだね」

諒は父に向かって頭を下げた。

「ご無沙汰をしております。今日はお時間を作ってくださってありがとうございました」

父は穏やかな声で言う。

「諒君こそ、忙しいだろうにわざわざ来てくれてありがとう。母さんの声が聞こえたからね。瑞月が言っていた『会わせたい人』が諒君だったと知って、驚いていたところだよ。そう言えば、この間も瑞月が色々とお世話になったそうだね。本当にありがとう。諒君が近くにいてくれてよかったって、母さんと話していたんだ。あぁ、立たせたままですまないね。どうぞ座って」

「はい、ありがとうございます」

諒はかしこまった顔でソファに腰を下ろした。私もその隣に座る。

「こちら、よかったら召し上がってください。お二人とも、日本酒お好きでしたよね?」

諒は手にしていた紙袋の中から箱を取り出して、父と母の前に差し出した。手土産として用意したものだ。ちなみに諒の両親にはワインを準備した。

「二人で選んでくれたのかな?ありがたく頂くよ。諒君、今度一緒に飲もう」

「はい、ぜひ」

諒と父のやり取りを黙って眺めながら、私は落ち着かなかった。前にしているのは自分の両親だが、背筋がピンと伸びるような思いだったし、口火を切るのは私の方がいいのだろうかなどと色々考えていたせいもある。私はそっと諒の顔をうかがい見た。

諒は私の視線に気がついて、大丈夫だと言うように小さく頷く。それから、おもむろに口を開いた。

「今日は、お願いがあってまいりました」
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