積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
ホテルに着いた私たちは、最上階にあるレストランで夜景を見下ろしながら食事をし、その後には同じフロアにあるバーラウンジへ移動した。案内されたカウンター席に座ると、シェイカーを振るバーテンダーの後ろにも夜景が広がって見えた。

バーテンダーは出来上がったカクテルを私たちそれぞれの前に置き、一礼して下がっていく。そのまま他の客の席へと向かった。

二人になったところで、諒がスーツのジャケットのポケットから小さな箱を取り出した。私の手を取りその上に乗せる。

「瑞月、改めてプロポーズするよ。俺と結婚してください」

諒の真っすぐな目を、私は見返した。

「はい。よろしくお願いします」

諒はほっとしたように笑い、椅子の背もたれに体を預けた。

「もう答えはもらっているのに、ちょっと緊張した。瑞月、それ、開けてみて」

「うん。……あれ?このブランドって」

私は手のひらの上の箱の表面を見た。そこには今日諒と見てきた指輪と同じブランド名が書かれていた。

まだサイズは調整中のはずだけど……。

不思議に思いながら蓋を開ける。

「これ……」

そこに入っていたのは、ダイヤだろうか、透明な石のチャームがついたネックレスだった。

「手元に何もない状態でプロポーズするのは寂しいだろ?だからその代わりに、これをね。少しあっち向いて。つけてやるよ」

私は椅子を少しずらし、諒の方に背中を見せて髪を手で抑えた。

「見える?」

「これくらいの光があれば大丈夫。よしっと、できた」

「ありがとう」

私は椅子を戻して諒に向き直ると、つけてもらったネックレスに指で触れながら言う。

「こんな風におしゃれをしてレストランでする食事も、こんなに素敵なバーも、男の人からネックレスをつけてもらったことも、何もかも初めて」

「初めて?本当に?元カレは?」

「こういうデートはしたことなかったよ。本当に初めて。だからね、今日のデートのこと、絶対に忘れないよ。ありがとう」

「そう言ってくれて嬉しいよ。なぁ、瑞月。……もっと忘れられない思い出になるように、これを飲んだら部屋に行こうか」

どきっとした。艶やかな目で諒が私を見ている。私はこくりと頷いた。
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