積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「一緒に住んでいても、それは味わえるかな、って思うんだよな。だいたいさ、今こんなに毎日一緒にいて、隣に瑞月が寝ているのが当たり前になってる。俺はもう元の生活には戻れないよ」

それは私だって同じだった。その気持ちを伝えるために、諒の胸にこてんと頭をつけて彼の腕を抱き締め返した。

「それじゃあ、引っ越しの予定、立てちゃうね。これからだと年明けになりそうだけど」

「とりあえず、計画だけは進めておこうぜ」

諒は携帯を手にして自分のスケジュールを確認し始めた。

私よりも楽しみにしてくれているような様子が嬉しい。けれど、ふと思い出したことがあって、私はぼそりと口にした。

「それまでは例の件が片付いているといいんだけどな……」

携帯を弄っていた諒の手が止まった。

「瑞月がここに来てからは、何かおかしなことは特には起きていないようだよな。二、三日おきに向こうのマンションの郵便受けを確認しに行ってるけど、怪しい手紙は入っていなかった」

「諒ちゃんの方はどう?」

「特には何も」

諒は短く答えたが、見上げたその瞳がほんの一瞬だけ揺れたような気がした。

「本当は何かあった?」

「瑞月が不安に思うことは何もないよ」

諒はにこっと笑って私にキスする。

なんとなくごまかされた気がしないでもないが、私に心配をかけないようにと思ってのことなのだろうと思い、今はそれ以上は追及しないことにした。もう手に負えないとか、何らかの危険が迫っているとなれば、きっと話してくれるに違いないから。

「もう終わってほしいな」

私はぎゅっと諒にしがみついた。

「そうだな。本当に」

そう言って私を抱き締める諒の腕はとても心強かった。
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