積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
ぼんやりと思いに耽っていたら、インターホンが鳴った。

私は我に返り、慌てて玄関に出て行った。

「諒ちゃん、お疲れ様」

「瑞月もお疲れ様。待った?」

「全然。あ、ちょっと待ってて。荷物、持ってくるね」

私は玄関先に諒を待たせたまま部屋の中に戻り、開け放っていた窓を閉めて戸締りを確認した。紙袋を手に持ち、靴を履く。

「行こうか」

諒に促されて、私は頷く。

次に戻って来る時は、少しずつ引っ越しの準備に手をつけないと、かな――。

階段を降りて外に出たところで、諒が言った。

「来客用が空いていなかったから、車は向こうの有料の方に停めたんだ」

「そうなんだ。たったこれだけのために、なんだかごめんね」

「俺が迎えに来たかったんだから、気にしなくていいんだよ。心配だしな」

「ありがとう」

諒に笑顔で礼を言ってから、私ははたと足を止めた。

「あ、ポストを見てくるの、忘れてた」

「それなら俺が」

「大丈夫よ。だって駐車場はすぐそこで、ここからも見えるもの。諒ちゃんは車に行ってていいよ」

私はそう言って諒の返事を聞く前に踵を返した。

その時だった。

建物脇の繁みの陰から不意に女性が飛び出してきて、私の目の前に立った。

私はとっさに体を引いた。

――誰?

混乱しかけながらその人に目を向けて、どこかで見たような気がすると思った。次の瞬間、彼女が私に向かって走って来た。

「あなたさえいなかったら……っ」

「瑞月っ!」

ほぼ同時に諒の声が重なって聞こえた。目の前には彼の広い背中があった。

「大丈夫だったか。怪我はない?」

「え、えぇ、大丈夫……」

胸がどきどきしていた。諒に縋りつきたくなって、彼の腕に手を伸ばしかけた私ははっとした。諒が左腕を押さえている。

「諒ちゃん、腕、どうしたの……」

よく見ると、街灯の下でも分かる程、彼の指の間がじっとりと濡れていた。

まさか、血……?

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