積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「そろそろ帰らなきゃ」

栞が壁時計を見上げて驚いたように言った。

あとはやるからという私をよそに、栞は凛と一緒に空いた食器を片付ける。

「二人とも、片付けまでありがとうね」

「どういたしまして。これくらいはね」

「そうよ、気にしないで。瑞月ちゃん、そのうちまた会いましょ」

「うん、もちろんだよ」

呼んだタクシーが来る頃合いを見計らって、凛と栞は帰り支度を始めた。

その二人を見送って来ると言って、諒も一緒に出て行った。

後片付けは二人が手伝っていってくれたから、ほとんど残っていない。寝るにはまだ早い時間だ。運び入れてもらったままの荷物を少し解こうかと思い、すでに私の部屋となっている元の栞の部屋に足を向けた。

使っていた家電の他、お気に入りのドレッサー以外の大きな家具は処分した。こまごまとしたものは少しずつ運んできていたし、もともと一人暮らしの荷物だからそんなに多くもない。

洋服くらいは少し出しておこうかと思い、段ボール箱に手をかけた時、開けたままだったドアから諒が顔を出した。

「おかえりなさい。お見送りありがとう」

「ただいま。荷解き?明日にすれば?今日は疲れただろう」

私は床に座ったまま、諒を見上げた。

「疲れたってほどじゃないよ。だって業者さんに頼んだし、お掃除だって凛ちゃんが手伝ってくれたから」

「そうは言っても、今日は晩飯も用意してくれたんだろ?」

「そうだけど、昨日から下準備してたし、凛ちゃんが手伝ってくれたから。実はたいしてやってないの」

私はあははと笑った。

「それならいいんだけどさ。……瑞月、一緒に風呂に入ろうぜ」

「え、でも……」

躊躇する私に諒はにっと笑う。

「一度もう一緒に入ってるじゃないか。ホテルに泊まった日」

それはそうだけれど、まだ恥ずかしいものは恥ずかしい。

「でも、ほら、諒ちゃんも疲れてるだろうから、別々に入った方がゆっくりできるんじゃないのかな……」

「瑞月の方が疲れてるんじゃないのか?だからだよ。洗ってやるから」

「え、いや、自分で……」

「いいから。もう、つべこべ言わない」

諒はひょいと私を抱き上げると、そのまま浴室へと向かった。
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