積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜

エピローグ

地元に戻った私たちは今、互いの実家からそう遠くないマンションに新居を構えている。

鍋の中身を確認して蓋を戻したところに、諒が仕事から帰って来た。これからクリニックを出ると電話をかけてきてから三十分もたっていない。

私はガスの火を止めて笑顔で振り返った。

「お帰りなさい。ちょうど火を使っていたところだったから、手が離せなくて。お出迎えできなくてごめんなさい」

「ただいま。全然問題ないよ」

諒は私にキスをしてからテーブルの上に目を走らせる。

「今夜の晩飯は何?」

「久しぶりにロールキャベツにしてみたよ。お祝いの意味も込めて」

諒はカレンダーを眺めて首を傾げた。

「お祝いって、何かの記念日だっけ?」

「記念日って言うか……。あのね、諒ちゃん」

私はダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。

「ん?」

諒は私を見下ろし、その先を促すように微笑んだ。

喜んでくれるだろうかとやや緊張しつつ、私は口を開いた。

「今日、病院に行ってきたの。それでね……。ここに、いるんだって」

私はそっと自分のお腹に手を当てた。 

「……ここに、いる?」

諒は私の言葉に戸惑った様子を見せたが、すぐにはっとしたように目を見開いた。

「俺たちの、子どもってことか?」

「うん。赤ちゃん」

どきどきしながら諒の顔を見ると、そこには満面の笑みが広がっていた。

彼は膝をついて、私のお腹にそっと手のひらを当てた。

「来てくれたのか……。瑞月、ありがとな。すごく嬉しいよ。このこと、おばさんたちにはもう伝えたのか?」

私は首を横に振り、ふふっと笑った。

「最初は諒ちゃんに、って決めてたから」

「そうか」

諒は嬉しそうに目元を緩め、それからふと思い出したように言った。

「栞のところの怪獣は、今年三歳になったんだっけ?この子がもし女の子でさ、栞ンとこのやんちゃ坊主と、将来結婚したいとか言い出したらどうするかな」

諒が眉をひそめるのを見て、私は苦笑した。

「そんな心配、気が早すぎるよ」
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