積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「え……。お兄ちゃん、なんか可哀そう」

「どうして?」

「だって、可愛い幼馴染から、チョコをもらえないなんて」

「そんな大げさな……。だったら可愛い妹の栞があげればいいでしょ」

「だから味見させてあげるんだよ」

「味見って……」

苦笑する私に、栞は真顔になって言った。

「あのさ」

「何?」

「瑞月って、お兄ちゃんのこと、どう思ってるのかなぁ、なんて」

「どうって……」

私は小首を傾げた。

「諒ちゃんは幼馴染で、栞のお兄ちゃんで、私にとってもお兄ちゃんみたいなものだけど」

「それだけ?」

「それだけと言われても……」

私は困って言葉尻を濁す。どうして栞が急にそんなことを言い出したのか謎だと思った。

しかし栞は私の答えを聞くと、小さくため息をついた。

「なんだぁ、そうかぁ。残念だなぁ」

「何が残念なの?」

「こっちの話。さて、と、お茶だったよね。仕方ない。受験生のお兄ちゃんにも持っていってやるか」

「それなら、私、持って行ってあげるよ。栞のチョコ味見してもらうんでしょ。このパウンドケーも、一緒に味見してもらおうかな」

栞はくすっと笑った。

「瑞月が作ったものなら、絶対に美味しいって言うよ。私のチョコの存在が霞んでしまいそう。――今、紅茶淹れるね」

私は栞が用意した紅茶を小さなトレイに乗せる。その隣の小皿には、トリュフチョコとパウンドケーキ。私は慎重な足取りで階段を上がっていった。
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