積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「ふぅん?そんなに欲しいなら、作るけど……」

「お、言ってみるもんだな。でもさ、ほんとはバレンタイン・デイって、好きな相手にチョコを渡す日なんだよな?瑞月には、そういう相手、いないの?」

「あはは、いないね」

「なんだよ、寂しいなぁ」

「彼女がいない諒ちゃんからは、言われたくないんだけどな。それにさ、好きな人がいなくたって、別に何も困らないでしょ」

「そういうこと言うのに限って、変な男を好きになったりするんだよな。ま、せいぜい気をつけろよ」

「諒ちゃんこそ、モテすぎて色んな方面から恨みを買ったりしないようにね」

私は笑って、空になった小皿を回収する。

「そろそろ戻るね。空いたお皿はもらっていくよ」

立ち上がってドアに向かおうとして、うっかりつまずいてしまった。バランスを崩しかけた拍子に、手に持っていた小皿を床に落とす。

「おっと!」

倒れかけた私を、諒が慌てて抱き止めてくれた。

「ご、ごめんね」

「気をつけろよ。びっくりした」

諒が苦笑した。

「そう言えば、子どもの頃の瑞月って、よく転んだとか言って、足首を捻ったりしてたよな」

「そうだったね。それでよく諒ちゃんのお父さんにお世話になってた」

私も苦笑で返してから、諒がまだ私を離していないことに気づく。

「諒ちゃん?もう大丈夫だよ?」

不思議そうな顔で見上げる私の言葉と視線に、諒ははっとした顔で手を離した。

「わ、悪い。とにかく、転ばなくて良かった」

「ありがと」
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