積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
私は落とした小皿を拾うと、諒に笑いかけた。

「やっぱりさ、諒ちゃんって優しいよね」

諒は照れたように目を伏せる。

「自分じゃそんなふうには思っていないけど。ま、お前も大事な妹みたいなものだから、優しくしないとな」

「ふふっ。ありがとう、お兄ちゃん」

「どういたしまして」

そう返した時の笑顔がほんの少し曇ったような気がしたが、諒はすぐにいつもの柔らかい表情を取り戻す。

「お菓子、うまかったよ。ごちそう様」

「また作るね。次は大学の合格祝いの頃になるかな?あ、その前に、チョコレートがほしいんだったね」

「あぁ、ぜひ頼む。それを食べて、このハードな受験勉強の疲れを吹き飛ばしたいところだ」

諒がため息交じりに言った時、階下から栞の声が聞こえてきた。

「瑞月ぃ?紅茶、淹れたよ!」

「はぁい!……じゃあ、またね」

「あぁ。あとは自分で片づけるから」

諒の部屋を出て階段を降りて行くと、そこで待っていた栞が私の顔を見て目を見開く。

「どうしたの、瑞月」

「何が?」

「なんかにやにやしてる」

「なんかね、諒ちゃんが本当のお兄ちゃんみたいだな、って思ってさ」

「本当のお兄ちゃん、ねぇ。ほしいんなら、いつでも変わってあげるけど」

栞は私をしげしげと見て苦笑を浮かべていたが、私の手を引いてキッチンに向かう。

「お茶にしよう。瑞月のパウンドケーキ、あたしも早く食べたいな」

「そうだね。食べよう」

栞の後に続いてキッチンに戻ると、私は自分たちの分のパウンドケーキを切り分けた。
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