【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜

第7話

「久保田君!」

 諒の姿を目にした彼女は嬉しそうな声をあげて、私からぱっと手を離した。
 彼は私たちの前まで来ると、厳しい顔をして彼女を見下ろした。その手を掴み、マンションから少し離れた空地へと引っ張って行く。
 確かにエントランス前で揉めていては目立つと、今になって反省したが、それよりもこの後の展開が気になった。私は少し離れて二人の後を着いて行く。

「俺にはもう関わらないでくれと言ったはずですよね。それなのに、またこんな風にやって来て……。いい加減にしてください」
「あなたが好きだから、どうしても諦めきれないの。ねぇ久保田君、彼女がいないんなら、私と付き合って。お願いよ」

 しかし諒は深々と長いため息を吐き出し、嫌悪感いっぱいの顔で彼女を見下ろした。

「いったい何度同じことを言えば、あなたは理解できるんでしょうね」
「だって、こんなにあなたが好きなのに」
「何度そう言われても、俺はあなたとはお付き合いはしませんし、これから先だって好きになることは絶対にありません」

 言われている当人ではなかったが、諒の辛辣な言葉に私ははらはらした。そっとうかがい見た彼女の表情もさすがに強張っているように見える。泣いたりしないかしらと、つい心配になった。
 彼女はわずかな希望を求めるように、縋るような目で諒を見上げた。

「どうして私じゃだめなの」
「どうしても」
「だから、どうして!」
「本当は言いたくなかったんですけどね……」

 諒は肩で息をつくと、彼女を真っすぐに見下ろした。その目はひどく冷ややかだ。

「その人に迷惑をかけたくなくて黙っていただけで、付き合っている人がいるんですよ」
「な、な……」

 すぐには言葉が出なかったらしい。彼女は口をパクパクさせた。
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