【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 急に話を振られて私は口ごもった。あれだけ「ただの知り合いだ」と連発したのだ。彼女が信じるわけがない。
 しかし、『早く頷け』と言わんばかりに、諒の目は半ば脅し気味に私を見つめていた。

 きっとこの場をやりすごすためだ。それなら仕方ない――。

 私はやむを得ず、諒の嘘を肯定するように頷いた。

「実は、そうなんです」

 彼女の目がカッと見開かれた。

「だってあなた、これっぽちもそんなこと言わなかったじゃない。知り合いだとか無関係だとか言ってたわよね」
「それは、彼に口留めされていて……」

 自分でも苦しい言い訳だと思う。
 しかしそれを追及しない代わりに、彼女はこう言った。

「それなら、本当に付き合っているっていう証拠を見せてよ。そうねぇ、例えばキスなんてどうかしら」
「えっ……」

 言葉に詰まっている私の肩を諒はきゅっと抱き、彼女に向かって苦笑を見せた。

「わざわざ人前で見せるようなものじゃないでしょ」
「あら、キスくらい簡単でしょ?それとも何かしら。それすらもできないっていうこと?やっぱり怪しいわ。嘘ね」
「まったく……困った人ですね」

 諒は呆れた顔をしている。

「俺たちがキスしたら、本当に付き合ってるってことを認めて、今度こそ俺のことを諦めてくれるんですね?」
「悔しいけれど……。その時はきっぱり諦めるわよ」

 彼女は唇を噛んだ。
 諒は肩で大きく息をつくと、その手を私の頭の後ろにそっと回した。私にしか聞こえないほどの小声で言う。

「ごめんな」

 本当にキスするの――?

 それを確かめる暇はなかった。諒の唇が私の唇の上に重ねられ、私は混乱した。
 反射的に彼の胸を押し戻そうとした私を宥めるように、あるいは彼女から私の姿を隠すように、諒はもう一方の腕で私をそっと抱き締めた。
< 36 / 166 >

この作品をシェア

pagetop