【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 唇が触れあっていた時間は、ものの数秒だったはずだ。それなのに、まるで時間が止まったかのようにひどく長く感じられて、呼吸が苦しくなった。
 諒はゆっくりと唇を離した。そのまま私の頭を自分の胸元へ引き寄せてから、彼女に顔を向けた。

「これで分かってもらえましたよね?」
「そ、そんな軽いキスなら、相手が誰だってできるでしょ」
「これ以上なんて、刺激が強すぎてあなたには見せられない」

 わなわなという表現が当てはまりそうな様子で、彼女は私たちを凝視した。いや、正確には私を睨みつけていた。

「とにかく、そういうことですから。俺のことはもう完全に諦めてください。それに俺、あなたのように派手な人は嫌いだし、そのギラギラした色の爪もそうだ。いかにも料理をしませんっていう感じ、生理的に受け付けないんですよね」

 彼女ははっとしたように、その手を背に隠した。

「……分かったわ」

 彼女は力なくうな垂れ、ゆらゆらとした力のない足取りで私たちの前から立ち去って行った。
 その後ろ姿が見えなくなって初めて、私は深呼吸をした。唇を拭い、今のキスは単なるアクシデントだと言い聞かせながらも、泣きたいような気分だった。

「諒ちゃん、ひどいよ。いったいなんなの。他にもっとやりようがあったんじゃないの?私、ファーストキスだったのに、こんなことで……」

 言っているうちに涙が滲んできた。
 そんな私の頭を諒は優しく撫でる。

「ごめん。つまんないことに巻き込んでしまったな」

 私はぐすっと鼻をすすった。

「本当よ。こういうことはもっとうまくやってよ」
「そうだよな。ほんと、ごめん。だけどこれでやっと、あの人も諦めてくれたはずだ。瑞月のおかげだよ。付き合ってるふりをしてくれて、ありがとな」
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