【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 私のもっともらしい言葉を諒は苦々しい顔で聞いている。あの日以降、彼は私との約束通り、ニンジンを頑張って食べている。ちなみに今日の一品はニンジンラペ。それをちびちびと口に運んでいた。
 乙女の唇を無理に奪った罰なのだからと、私は彼の様子に大満足する。
 食後、食器を片づけていると、諒が傍に寄って来た。栞は風呂掃除に行っている。

「瑞月って、結構性格悪かったんだな」
「絶交されないだけマシだって、諒ちゃん言ってたじゃない」

 私はぷいっと顔を背けた。

「それもそうだな。これくらいで済んで良かったと思わないとな」

 苦笑を浮かべる諒に、私はふと思い出して訊ねた。

「それで、あの後あの人は?」
「あぁ、おかげでぱったり。ほんと、助かったよ」
「ねぇ、一つ気になってることがあるんだけど」
「何?」
「私と諒ちゃんがつき合ってるっていうあの狂言話、あの人以外にも知ってる人はいるのかな」
「回り回って、何人かに話が流れてしまったけど、相手が誰かまではみんな知らないよ。会わせろって言われても適当にはぐらかしてるし、大学も違うから、瑞月に迷惑がかかることはないと思う。ま、俺にとってはいい虫よけになったよ」
「それならいいけど……」

 私は諒の顔をしげしげと見た。

「諒ちゃんに本当に彼女がいれば良かったのにね。そしたら今回みたいに、私で間に合わせることはなかったのに」
「間に合わせるって……」

 諒は脱力したように肩を落とした。

「俺は……」

 彼が何かを言いかけた時、栞が戻って来た。

「お風呂、準備できたよ。瑞月、たまには先に入ったら?」
「いいの?」
「もちろん。お兄ちゃんはいつも通り、最後でいいよね」
「それでいい」

 諒の口から深いため息がこぼれた。
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